わたしたちは愛知県の山間部にある設楽町で新たな事業を行うため、一軒の古民家を購入した。
その古民家は元々宮大工のご主人が自ら建てた家で、私たちがこの家を引き継ぐことになったのだが、
全てはキレイに修理されており、すぐに住める状態だった。
わたしたちは事業を行うために、ガレージの一部分を改装することにしたが、
その壁にこのポストが設置されていたため、ポストを取り外し、当時はこれを処分することを選択していた。
今考えると本当に浅はかであったと感じる。
このポストは処分されるまで、裏庭の一角にゴミとして放置されていた。
わたしたちは新しいポストを設置することを考えていたから。
改装工事も終わり、郵便物の受渡にポストが必要になり、新しいポストの手配をしなければならなかったが、
とりあえず借りのポストとしてそういえば取り外している前のポストが裏庭にあると気づき、それを引っ張り出してきた。
このポストを再度見たわたしたちは、このポストがとても可愛くて素晴らしい作りをしていることに気が付いた。
宮大工のご主人がこの家を建てたときに自分で作った世界に一つしかないポスト。
ポストから色々な風景が浮かび上がってきた。
ご主人がこういうポストが良いなと思いながら作っている姿。
それが完成し家族に「ポストができたぞ!」とお披露目をしている場面。
そのポストに手紙が入っているか確認する家族の姿。
みんなの気持ちがこもった世界に一つしかないポストを私たちは安易にゴミとして捨てようとしていたのだ。
とても耐えがたい罪悪感を感じた。
「このポストを使おう!」
わたしたちはこのポストにとても感動してしまった。
ポストにはステッカーが貼ってあった跡があった。
そこにわたしたちは事業のステッカーを新たに貼ることにした。
貼った瞬間このポストは生き返るように輝いている感じがした。
愛の詰まったポストである。
機械で大量生産されたものと
その人が愛情をもって作ったもの。その違いは「愛」だ。
愛情をもって作ったものは古くなっても
愛は消えない。
愛のあるものは直してでも使いたくなるほど可愛くて美しい。
直すというのはとても気持ちが良い。
壊す・捨てる✖
直す◎
愛の詰まったものは
それ以上のものは無い。
それでもう十分になる。